くさぶえ野菜について

 非農家出身者が農業の世界に飛び込んで、2年間有機農家で研修をしてきました。2001年春に独立し、「くさぶえ農園」を開園しました。農園名は、佐久・小諸ともゆかりの深い島崎藤村の詩「小諸なる古城のほとり」の一節からとりました。広々とひろがる畑と佐久の空に草笛が響いてゆくように、野菜だけではなく、想いも一緒に遠く皆さんの心まで届いていったらいいなぁ…と思います。

高原という環境で育つということ

 くさぶえ農園は、長野県東信地方の佐久市旧望月町に位置します。気象の観測地点でみると、軽井沢に近い気象状況の立地です。くさぶえ野菜は、浅間山、蓼科山、そして北アルプスを望む、標高約千メートルの高原で育った野菜です。ここでは昼夜の寒暖の差が大きいため、野菜の甘みが強く、野菜本来の味を楽しんでいただけます。また、冬場は積雪も少なく、最低気温がマイナス10℃以下にもなるため、畑の土は深さ20~30cmまで凍ってしまい、病害虫が越冬しづらい環境です。そのため、夏場の病害虫の発生が少なく、無農薬栽培が行い易い環境だと思います。

小さな農家ならではの丁寧な対応

 野菜の栽培から収穫、出荷作業まで一貫して行っています。小さな農家ならではの丁寧な対応を心掛けていて、お客様の要望などに出来る限りお応えさせていただいております。

 作付けなどの都合もあり、くさぶえ野菜をお客様に基本的には定期的にお届けさせていただきますが、お客様のご都合により宅配日の変更やお休みを希望される場合には対応させていただきます。また、例えば「今週末は友達とバーベキューをやるから、今回はLパックでお願いしたい」とか、「いつも土曜日だけど、今週は都合が悪いので水曜日にしてほしい」などの要望にも出来るだけ対応させていただいております。

 また、基本的には畑にある旬の野菜をお任せでお届けさせていただきますが、アンケートなどを通して、お客様の好きな野菜、嫌いな野菜ベスト3を挙げていただいています。野菜の組み合わせの参考にさせていただきながら、嫌いな野菜は送らないように心がけています。但し、畑の状況などで必ずしもご要望に応えることは出来ないこともありますのでご了承ください。

 野菜の収穫から出荷作業まで一貫して行い、佐川急便(株)の宅急便でお客様に直接お届けしますので、収穫してから最短で鮮度の良い野菜をお客様にお届け出来ます。

 保存性の低い葉物野菜は、夏場は出荷当日に、冬場は出荷前日に収穫し、新鮮な状態でお届けします。特に高温期には、出荷当日に収穫後、冷蔵庫にて予冷して、防曇袋に袋詰めして出荷することで鮮度を維持出来るように心掛けています。出荷日の翌日には農園から直接ご家庭までお届け出来るため、鮮度の良い野菜を食べていただけます。

 このような対応には、お客様に畑の状況などを理解していただくことが不可欠だと考えています。くさぶえ農園に来ていただき、畑を見ていただくことが一番良いとは思います。来園を希望される方は事前にご連絡いただければいつでも歓迎します。しかしながら、なかなか来園出来ないのが現実です。その分は、宅配期間中に毎週発行している通信「くさぶえ」で補っていきたいと思います。通信では、畑の様子や農業を通じて考えたこと、皆様からの声などをお伝えし、皆様との交流の場にしていきたいと思っています。有機農業についてや野菜料理のレシピなども紹介しています。なお、通信の内容については当ブログ上にて公開していきます。

ミネラル豊富な質の高い健康な野菜

 くさぶえ農園では農薬や化学肥料を使用していません。土壌分析を適宜行い、畑の状態を把握して、肥料の不足や過剰がないように無駄のない施肥設計を行っています。

土壌分析 肥料は堆肥を主体として、アミノ酸肥料(平飼い養鶏の鶏糞など)やミネラル肥料(マグネシウムや石灰、ホウ素、マンガン、鉄など有機JAS規格に適合した資材を使用)を加えることで、ミネラル豊富な質の高い健康な野菜を作ることを目指しています。この取り組みには、㈱ジャパンバイオファームの小祝政明氏が提唱する有機栽培を参考にしています。このような有機栽培は全国に少しずつですが広がりを見せてきていて、中には平均的な野菜よりも糖度が高く、ビタミンが豊富で、硝酸イオンも非常に低い、といった野菜作りも実践されるようになってきています。

 ミネラル肥料という聞き慣れないものをなぜ使うのか?初めての方は疑問に思うのではないでしょうか。そもそも昔は土にミネラルの補充なんて必要なかったんじゃないか、と私も初めは思っていました。このことについても小祝氏に教えていただきました。

 昔は、例えば江戸時代の農民は夜が明けると我先に河川敷の青草を刈りに行っていたそうです。その青草と人糞などを使って堆肥を作っていました。今と違って、ダムや堤防もなく、河川の氾濫により河川の周囲はミネラルなどが豊富にある肥沃な土地でした。そこに育つ青々とした草にはミネラルが豊富にあり、その青草を使った堆肥はミネラルの豊富な良質堆肥だったと考えられます。そのため、畑にはミネラルを補充する必要がなかったのでしょう。昔の百姓は経験的に青草堆肥の良さを知っていたのです。

 今は、ダムにより土砂は堰き止められ、河川の氾濫原は堤防で狭められていますし、河川敷の草を刈ることもどこでも出来る状況ではありません。

 現在の状況では、畑の土壌を分析して、不足しているミネラルを補っていくやり方が必要だと納得しました。ミネラルが豊富な作物は、現代人に不足しているミネラルを補うことにもなり、食べる人の健康にも関わってくると思います。

 健康な土を作り、健康な野菜を食べることで、人間も健康になっていくのだと信じています。

 また、輪作を行うことを基本として、連作障害を防ぎ、病害虫の発生を抑えるようにしています。

 季節に合った品種や味の良い品種にもこだわっています。種苗屋さんと相談して毎年新しい品種を試しながら、お客様により満足のいく野菜をお届け出来るように試行錯誤を繰り返しています。それぞれの季節に葉物や根菜類などが出来るだけバランスよく入るように心掛けていますが、同じ野菜が続いてしまうこともあると思います。また、値段も決して安くありませんが、消費者の皆様に食べて納得してもらえるような野菜を作っていきたいと考えています。

 このような取り組みは、お野菜に同封している通信「くさぶえ」(宅配期間中に毎週発行しています)で公開しながら進めていきます。

有機認証を取得していません。

 2000年10月に施行された改正JAS法によって、農林水産省が認めた機関の認証を受けないと「有機」と表示できないことになりました。喜ばしい流れのような気もしますが、欧米の認証制度を取り入れた今回の法改正は、小規模ながら多品目を生産し「提携」という形が主流である日本の有機農業の実状に合わない面が多々あるように思います。

 ただでさえ厳しい国内外の農業事情の中で農家の側にかなりの負担を強いる内容でもあります。また、30種類以上の農薬が使用して良いことになっています。

 これからの法律の行方と国内外の農業事情の変化についてしっかりと見極めていく必要はありますが、くさぶえ農園は、「提携」という形での農業には現時点では認証を受ける必要はないと考えています。野菜を食べていただく方々との信頼関係を重視し、「有機」と表示出来なくとも、認証基準をクリア出来るような「無農薬・無化学肥料栽培」の野菜を作っていきたいと思います。

くさぶえ農園の考える旬の野菜

 以前、FMラジオを聞いていて、とてもいい話を聞きました。

 古くから日本では、同じ食べ物でもその食べ物のとれた時期や状態などにより、「初物」、「旬」、「なごり」と呼び方を区別して使い分けていたそうです。野菜に関しても同じことが言えそうで、いろいろと考えさせられました。

 種を播いて育ててきた野菜が大きくなり、収穫時期を迎えて最初にとれ始めたものが「初物」です。まだまだ収穫量も少なく、味もこれからピークを迎えるといった感じですが、ようやく迎えた収穫期を喜びます。

 そして、収穫の最盛期を迎えて、その野菜の「旬」となります。収穫量も増え、味ものってきて、その野菜の美味しさを存分に楽しむことが出来ます。

 次第に生育後期になっていき、収穫量も減り、味も次第に落ちていきますが、その野菜を「なごり」と呼んで最後まで楽しみます。

 こういった呼び方とは別に、漬物にして長期間保存しながら食べるものは「時知らず」と呼んだそうです。とても素敵な日本語だと思いました。

 現在は、スーパーなどで野菜を買うことが一般的になり、「旬」の状態のものだけが並ぶようになりました。しかし、野菜を育てていると「旬」の時期はとても短いことがよく分かります。そして、「初物」を味わう喜びや、「なごり」を楽しむことがとても大切なことであることに気付かされます。これらの言葉は、食べ物を育てながら大切に食べてきた日本人の生活から生まれてきたものなんだ、と思います。

 また例えば、小松菜やホーレンソウなどは品種の開発や栽培方法などによって1年中栽培して食べることが出来るようになりました。しかし、もともとの旬である冬の味に勝るものはありません。マイナス10℃を下回る厳寒期のハウスの中で、ストーブなどで加温されることもなく、寒じめされた小松菜やホーレンソウは、お店で売られているものに比べると見た目は悪いです。しかし、野菜自身が糖度を上げて凍らないようにと頑張っていて、その味は最高だと思います。そんな野菜たちもお客様に是非食べていただきたいと思っています。

 くさぶえ農園では、「旬」の野菜だけでなく、「初物」や「なごり」のもの、そして「時知らず」もお届けしながら、いろいろな顔を持つ野菜を味わっていただけたら、と考えています。

無理のない宅配を続けてください。

 長野に来る前は東京にいましたが、一見何でも手に入るような便利な都会生活でしたが、安全なものを食べる、手に入れるということが如何に困難であるか、と実感しました。忙しい日々の生活の中で、3度の食事もままならない時もありました。しかしながら、私たちの生活にとって食事というものが大事であることは言うまでもありません。

 くさぶえ農園からお届けする野菜だけで全てを賄えるとは思っていません。しかし、くさぶえ農園から届いた、作った人の顔が見える野菜を日々の食生活の基本にしていただけたら、と思います。

 お野菜に同封する通信「くさぶえ」やブログ、そして実際に畑に来ていただいての交流などを通して、無農薬・無化学肥料栽培の難しさや楽しさ、そしてお客様の宅配に対する要望などについてお互いに理解を深めていきたいと考えています。このような関係を作りながら、お互いに少しでも無理のない産直の道を模索していきます。

農業体験もやっています。

 縁あって、就農1年目から埼玉県の「自由の森学園」の中学生や高校生を夏休みを利用して受け入れ始めました。その模様については通信で紹介していきます。

 「自分の食べているものがこうやって作られていくんだ」ということを実際に体験することは、生きていく上でとても重要なことだと思います。また、自分達が畑から感じた、農業の難しさ、大変さ、そして楽しさ、こういったものを少しでも理解してもらいたいと考えています。

産直を始めるにあたって

 農薬漬けの農作物、遺伝子組み換え作物、ポストハーベスト、環境ホルモン、日本の食糧自給率41%(1997年度カロリーベース)、減反の強化、米の関税化(自由化への第1歩)、国内への輸入野菜の急増、世界の飢餓人口は8億人を超え、21世紀には食糧不足が世界的な重大問題になるという国際機関の警告,、TPP交渉への日本の参加等々、私たちの周りの食事情は年々悪化の一途にあるように思えます。

 この厳しい状況の中でも元気に頑張っている農家がいます。産直に取り組む農家もその1つです。産直農家は、市場流通とは違った、「顔の見える」関係を大事にした生産者と消費者の結びつき(=提携)を大切にしています。このような関係では、消費者の声が直接生産者に届き、消費者も誰が作ったものか分かり安心して食べることが出来ます。また生産者も消費者の声に励まされ、よりしっかりしたものを作ろうとやる気が出ます。くさぶえ農園では、このような信頼関係のある提携を広げていく中で、21世紀の農業に明るい展望をもちたいと願っています。安全で美味しいものを作り、食べて、消費者にも同じものを食べていただきたいと思います。